まえがき

 各年を象徴する出来事を漢字で表すことが行われ、平成19年の漢字は『偽』、平成18年のそれは『命』であった。ミートホープ、赤福餅、白い恋人、船場吉兆などの食品偽装問題から選ばれたのであろうが、いずれも人の命を粗末にする企業利益優先の行動がこうした不祥事を生んでいる。亀井利明学会長の言葉を借りると、リスクの社会化現象が広がっているといえる。こうした状況下、日本リスクマネジメント学会の役割は、企業と社会とのすき間を学術的および実務的視点から埋めていくという点においてますます重要となっている。
ところで、昭和53(1978)年9月に創設された日本リスクマネジメント学会は2008年に30年の節目を迎える。全国大会のみに関していえば、これまで31回の大会が開催されてきた。その統一論題の主なものを振り返ってみると、1980年代の学術的でベーシックなテーマから1990年代には企業の経済的環境や規制環境の変化とRMとの関連に関するテーマへ、そして2000年代に入ると企業の不祥事や社会的責任、企業統治などに関わるテーマへと変遷してきている(80年代「わが国におけるRM研究の方向性」「経営の国際化とRM」「財務管理とRM」「投機的危険とRM」他→90年代「経済環境の変化とRM」「経営破綻とRM」「規制緩和とRM」「保険不安とRM」「リーガル・リスクマネジメント」他→2000年代「コーポレート・ガバナンスとRM」「企業の社会的責任とRM」「経営者の人間性とRM」「新会社法とRM」「現代企業におけるRMの役割」他)。学会の統一論題がその時代の世相を示しているともいえるし、同時に開催校のご努力はもとより多くの会員のご協力により30数回の全国大会、60数回の部会が開催されてきたことに感謝しなければならない。
本号には、31回大会報告及び部会報告の主な報告が掲載されている。リスクが社会化している今日、保険企業を含む現代企業には様々な責務が課せられてきているが、その中でのリスクマネジメントの役割に関する論文が内部統制、組織、情報開示などの視点から、部会報告とともに掲載されている。まさに時宜を得た研究であり、その成果であろう。
学会創立30周年を迎える2008年は記念すべき年であり、同年3月30日には学会創立時に関係者が集合した関西大学で30周年記念大会が開催される。誠に喜ばしい限りである。学会会長であられる亀井利明会長は昨年、喜寿を迎えられたが研究への情熱はますます盛んであり、学会運営の面においても何かと貴重なアドバイスを頂いている。30数年間、学会の誕生から今日に至るまでのすべての過程において、心血を注いでこられた亀井利明先生には感謝の言葉以外何ものもない。
今後、日本リスクマネジメント学会がさらに発展していくためには、会員の皆様のご研鑽と諸活動へのこれまで以上のご協力ご支援を望んでやまない。

2008年1月16日
理事長 上田和勇