『危険と管理』第38号 JARMS双書No.26
「保険金不払い問題とリスクマネジメント」
2007年1月

まえがき

 

 平成17年度は人災による災害が多発した年であった。平成18年度に入っても一向に改善される兆しは見えてこないのははなはだ残念なことである。ガス瞬間湯沸し器の一酸化炭素ガスによる死亡事故、家庭用シュレッダーによる幼児の指切断事故、パソコンや携帯電話用電池の発火事故、トラックの車輪を支えるハブの強度不足による5万台を越えるトラックのリコール、不二家事件、そして、本稿執筆中の今、北海道北見市の都市ガス漏れによる住民の死亡が伝えられるなど、わが国メーカーが誇っていた品質管理の信頼性は著しく損なわれている。

 一方、保険契約に伴なう保険金支払いに関し、契約を遵守することにかけては紳士的でまじめなはずの保険会社が保険金の不払いや支払い漏れを起こし、問題が発覚してから今日現在で1年半を経過しようとしているのに、とどまることを知らない。数日前ことであるが、平成19年1月17日付け日本経済新聞は、某生命保険会社の保険金未払い500件の存在を報じ、今日ですら未払いの事実が陸続と暴露されているのである。これもメーカーと同様、いわば品質管理の信頼性を大きく損なってしまったといえよう。

 これらの不払い、支払い漏れ、未払い等には、保険会社側に同情すべき点もあり、一概に責めることもできないが、少なくとも商品や社内体制に問題があったことは間違いない。我が日本リスクマネジメント学会は、9月に大阪市立大学で行われた全国大会で、共通論題として本問題を取り上げた。それがどのような規模で生じ、どのくらいのインパクトで保険契約者および保険者を直撃したのか、そして保険金を受け取るべき被保険者や保険金受取人の権利をどれだけ阻害したのかを明らかにし、この問題に対してどのような予防策、改善策が取られるべきかを研究・討議した。それは危険管理論の専門家に課せられた責務ともいえるもので、我が学会しかできないことであったのではないだろうか。その意味で、まことに意義深い研究報告であった。

 また、全国大会二日目には、第2統一論題「新会社法とリスクマネジメント」の研究・討論が行われた。コンプライアンスが叫ばれるなか、新会社法の重要な任務を明らかに示す貴重な研究報告であった。

本号には、さらに内部統制とリスクマネジメントに関する論文が寄せられるなど、企業の法令順守に資する時宜を得た研究が掲載されている。今後、我が学会が発展していくためにも、会員の皆さんが一層の研鑽を積まれ、このような時宜を得た研究成果を続々と発表されるよう望んでやまない。

2007119日                理事長 戸出正夫