Japan Risk Management Society since 1978


『危険と管理』第29号・RM双書(Jarms Report) No.17

『保険・金融不安とリスクマネジメント』

1998年9月発行


はしがき

 

日本リスクマネジメント学会

理事長 亀井 利明

 

日本リスクマネジメント学会は創立後、満20年を経過した。この10月より21年目の活動に入る。

この20年の間には随分といろんな出来事や事件が発生し、リスクマネジメントの理論的研究の進化が見られた。すなわち単なる保険管理型から、危機管理型、経営管理型、経営戦略型へと発展し、今や起業危機管理型へと発展しようとする勢いである。

しかし、実務の方はどうか。残念ながら不完全な保険管理型リスクマネジメント、よろず屋式危機管理、経営評論的リスクマネジメント、セミナー屋流危機管理等々が流行し、健全なリスクマネジメントや危機管理が定着していない。

昭和54年1月30日に刊行された当学会の会報の創刊号で、故葛城照三博士(昨年RM殿堂賞を受賞)が「リスクマネジメントは今や、新しい学問分野として成立しているが、まだWissenschaftの域には達していないようである。それでもLehreの域には達していることと思う」と述べておられる。これは20年前の文章であるが、いま現在、私はリスクマネジメントの理論は確実にWissenschaftの域に達したと考えている。

しかし、実務では保険・金融ビッグバンが叫ばれ、保険・金融の規制緩和や自由化が幾分かは進んだが、未だにオーダー・メイドの商品、料率の自由化はきわめて不十分である。また、保険ブローカー制も、単なる仲立人で被保険者の代理人としての保険金請求業務の代理が認められていない。

こんなことではリスクマネジメントの初期段階での保険管理すらもまともにできるはずがなく、日本では中途半端なリスクマネジメントの状態が未だに続いている。

そのうえ、折からの経済不況とバブル崩壊の悪影響で、保険不安、金融不安が一般化し、保険企業や銀行・証券自体が倒産の危機にさらされ、自らも経営管理型や経営戦略型のリスクマネジメントの必要に迫られている。

このような保険不安や金融不安の状態では一般企業や家計の実施するリスクマネジメントや危機管理におけるリスク・ファイナンスがきわめて不安定でリスクを含むものとなっている。

日本リスクマネジメント学会は創立20周年の記念事業の1つとして、本年1月30日、31日の両日、関西大学で春季全国大会を開催し、その統一論題として「保険不安とリスクマネジメント」および「金融不安とリスクマネジメント」というテーマを採りあげた。

会報第29号(RM双書第17集)はこのときの統一論題に関する論文を主として編集した。20周年を記念する学会誌として誠に適切な処置であると考えている。

本学会の財政事情が必ずしも良好とはいえず、寄付金に依存し、かなり無理して刊行しているので、本号は平成10年9月末現在の会員にのみ配布することにした。

今後、学会財政を安定させ、会報の一冊を臨時号としてではなく、確実に年に2冊の会報(RM双書)を刊行するよう努力し、わが国唯一のRM公認学術団体としての責任を果し、眞に正しいリスクマネジメントや危機管理を日本の社会に定着させたいものである。

 

1998年9月

  


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