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『危険と管理』第27号・RM双書(Jarms Report) No.15
『経営戦略とリスクマネジメント』
創立20周年記念号
1997年8月発行
序文
日本リスクマネジメント学会常務理事
東北学院大学教授 冨士 拳
日本リスクマネジメント学会は創立20周年を迎えるにあたり、記念論文集「経営戦略とリスクマネジメント」を、RM双書の臨時記念号として刊行するはこびとなった。慶祝のいたりに存じます。
当学会は昭和53年9月に創設されてから20年の歳月が流れたことになる。創設当時の日本経済は、親の庇護のもとにある青年のごとく病気知らずの、官主導型高度経済成長過程にあった。その意味でリスク管理の研究は、
一部の専門家の間で論じられていたのは確かであるが、社会科学研究者の主要なテーマとして論じられることは必ずしも一般的ではなかった。この時期にやがて顕在化するリスク管理の専門家集団が設立されたことは、先見性の観点だけから見ても意義のあることであったと思われる。やがて日本経済は高度経済成長をなしとげ、経済の規模が飛躍的に拡大し、一国を越えて世界的な位置付けとなった。企業活動が複雑になり、多様化した。リスクマネジメント研究も単に純粋危険をいかに合理的に処理するかという中心的視点をすべての企業危険を対象とする、そして又ようやく多様な資産と行動範囲を持つ様になった一般市民の家計危険を守備範囲とする総合的な視点に発展した。企業危険に関していえば、その必然的な流れとして保険管理型、経営管理型、経営戦略型へと発展した。
現在、我々は企業においては、自由化、国際化、情報化、グローバル化のなかで、特に金融部門において顕著であるようないわゆる「護送船団方式」の官指導型経済が主に経済合理化の点で行き詰まり、行政改革、規制緩和、民営化、小さな政府論が叫ばれ、米国型の自由な競争を前提として経済合理性を追求する社会への移行に直面している。他方家計においては高齢化、少子化、核家族化によって、家族が崩壊し従来市場経済の外に在って家族によって対処されていた扶養、介護、防災等の問題が社会的課題として政府や市場経済の問題としてより顕在化している。これらの経済現象の変化はいずれも企業や個人のリスクを増大させ、多様化させ、そしてそのリスクを自己責任において処理しなければならないという時代に突入している。従ってリスク研究、その管理、処理の理論的、実学的研究は、今後その重要性をますます増大させるものと思っている。
日本リスクマネジメント学会は、かかる日本経済の大きな流れの中で成長して来た。20年わずかで29名で発足して当学会は今や500名を越える会員を擁する規模となった。勿論ここまで成長してきた背景には新、旧会員各位の献身的努力が第一義であることは言うまでもない。
その間当学会はまた質的充実を深め創立6年後の昭和59年11月に日本学術会議第18条に基づき登録学術団体として認定され、平成3年10月には日本経済学会連合への加盟が承認され、リスクマネジメント研究団体として名実を備えたものになっている。そしてまた平成9年4月日本学術協力財団の賛助会員ともなった。
他方学会では近年会員の研究水準の向上と奨学の目的で、RMA(リスクマネジメント・アドバイザー)とRMC(リスクマネジメント・コンサルタント)の制度(リスクプロフェッショナル制度)を学会内資格として導入した。その結果、前者は260名、後者は70名を越える資格が認定され、学会を活性化させるに至っている。
本双書は上記の認定をうけた実務家を中心とする論文を編集したものから成っている。
日本リスクマネジメント学会が20周年を迎えるにあたり、当学会が各会員の研究を深める場、リスクマネジメント論発展の場として一層機能するよう期待している。会員各位のご支援、ご協力を期待し、お願いする次第である。
なお、本双書は創立20周年を記念して刊行される臨時号であるため、比較的若い研究者を中心として編集されている。
1997年8月
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