Japan Risk Management Society since 1978


『危険と管理』第35号・RM双書(Jarms Report) No.23

企業価値向上・ITとリスクマネジメン

2004年3月発行


ま え が き

 

 現在は,大きな過渡期であります。農業革命,産業革命に続く第3の情報革命の時代だといわれています(トフラー)。情報革命のなかで,グローバリゼーションは,一進一退を繰り返し,ときには「文明の衝突」(ハンチントン)を呼び起こし,他面で相互理解を深めつつ,進展していくのではないかと思われます。グローバリゼーションのなかで,I

Tにもとづくものは,不可逆的なものだからであります。

 日本においては,明治維新,戦後改革に次ぐ変革の時代だ,と現在はみられています。変革の時代であることの兆候を具体的にいいますと,1つには企業の資金調達において,間接金融から直接金融への流れが,少なくとも優良大企業において,基本的方向としては相当程度,不可逆的なものだと思われることであります。企業は,株主や投資家にいっそう配慮せざるをえず,したがってまた,株主価値の向上を目指さざるをえなくなっているのであります。

 しかし一方において,現在では,大企業であれ中小企業であれ企業は,株主や投資家,また債権者・金融機関だけでなく,従業員,さらに消費者・顧客,サプライヤー,地域社会・住民,政府・自治体なども含めてのステークホルダー(利害関係者)全員の期待に応えなければならない。そうでなければ,企業が継続企業として存続することは,とうてい

不可能だからであります。企業がそのようなステークホルダー全員の期待に応えて,企業を継続企業として存続させるためになすべき企業経営の姿は,企業価値を向上させる企業経営であります。

 このような観点から,本学会では,大阪商業大学で開催された2003年度の第27回全国大会統一論題として,第1に「企業価値向上とリスクマネジメント」,第2に「ITとリスクマネジメント」を設定した次第であります。その記録を中心とし,また関西,関東の両部会報告の記録を含めて,本号は編集されました。若い会員から寄稿されている力作に注

目していただきたいと思います。

 さて,現在は,大きな過渡期だということに思いを致すとき,日本や世界の国ぐにが,近代国家を築くうえで様ざまな危機に遭遇し,幾多の岐路に立たされたことが眼に浮かんで参ります。そのとき,リーダーとそれを支える人びとは,どのようにしてリスクを認識し,そのリスクを如何にコントロールしつつ行動したのか。25周年の大きな節目を迎え

た本学会は,そのような過渡期の歴史から多くのものを学び,理論を構築し,具体的な方法やツールをつくって,世に貢献したいと考えました。

 そこで,2004年度の第28回全国大会は,歴史の舞台の1つである下関の地の下関市立大学に会場校をお願いし,統一論題として「歴史に学ぶ危機管理−リスクと意思決定の観点から」を予定しております。また,昨今は,大地震をはじめ自然災害の予測がなされ,行政等においてその対策が講じられようとしております。このような折り,いま1つの統一論題として「災害管理型リスクマネジメント再考」を予定しております。

 2003年4月から,日本において委員会等設置会社の設立が認められております。この会社には,商法施行令の定めるところにより,損失危険管理を含む内部統制システムの設置が義務づけられました。当該のシステムとは,具体的にどのようなものか,興味深いところであります。

 会員諸氏のご健勝を祈念申し上げるとともに,ますますのご活躍を期待します。

 

                       2004年1月

                        理事長 吉川 吉衞


学会誌『危険と管理』のページの目次に戻る

目次に戻る