Japan Risk Management Society since 1978


『危険と管理』第33号・RM双書(Jarms Report) No.21

『コーポレート・ガバナンスとリスクマネジメント』

亀井利明理事長 古稀・定年退職記念号

2002年3月発行


はしがき

 

 2001年という新世紀の最初の年は,企業にとって家庭において,また行政にとってもリスクマネジメントの必要性が改めて強く認識された年でありました。

春に,附属池田小事件が発生し,学校という最も暗然であるべき場所での児童に対する殺傷事件に人々は戦慄しました。また,9月11日には,アメリカで同時多発テロが発生し,それは人類の予想をはるかに超えた文字通り悲惨な出来事の勃発でした。さらに,歳末近くには,日本では発生しないだろうと思われていた狂牛病が発生しました。

景気は,バブルの破裂後,現在まで低迷し続けています。企業は,経営破綻や倒産の危機のなかにあり,雇用の不安は増大し続けています。一方,ピンチはチャンスとも言います。ビジネスリスクの適切なマネジメントを通して起業が可能となり,また既存企業の維持・成長,さらに新規事業の展開の可能性が生まれます。

このような世の中を見るとき,亀井利明理事長が時代の先を見通して,リスクマネジメントの重要性とその実践の必要につき,強く警鐘を鳴らし続けてこられたことに対し,改めて時代を見る目の確かさ,その感性の鋭さに驚きの念を禁じ得ません。

先生は,本学会を1978年に創設されました。爾来,理事長としておよそ四半世紀,学会活動を担ってこられました。2000年10月15日をもってめでたく古稀の賀を迎えられました。また,関西大学におきましては,半世紀にわたり教育・研究,また大学運営に邁進されてこられましたが,2001年3月末日をもって定年退職されました。関西大学商学会に対するご功績ゆえに,本学会会員も多数が執筆した『亀井利明教授古稀記念特集』(関西大学商学論集第45巻4号)を献呈されています。

理事長の古稀を祝しご退職を記念し,あわせて長年の学恩とご厚誼に感謝し,一層のご活躍と益々のご健勝を祈念して,学会は,関西大学にて2001年度春季全国大会(第24回大会)を開催しました。統一論題は『二一世紀のリスクマネジメント』であります。大会では韓国リスク管理学会代表,同顧問・朴恩会先生にご報告をいただきました(本誌第32号にて収載)。また,理事長は記念講演をされました。9月には,広島修道大学にて秋季全国大会(第25回大会)が統一論題「コーポレート・ガバナンスとリスクマネジメント」をもって開催されました。

本誌には,それらの報告論文が,部会報告の論文とともに掲載されています。それら論文を見ますと,亀井理事長の学問の巨大さを改めて感じます。

純粋リスクのマネジメントである保険の上手な入り方がリスクマネジメントであった当時の世界的な学問と実践の状況のなかで,理事長は時代に先駆けて投機的リスクをもふくめた経営戦略型リスクマネジメントを構築されました。かつ現在は,企業危機管理と家庭危機管理を対の関係,相互補完の関係において,いうならばギリシア文字のπの形として把握し,また企業危機管理,家庭危機管理,行政危機管理を同様の関係において,相互の,また3者の研究を,理事長は一層深めておられます。

いまの不確実な世の中で,日本リスクマネジメント学会の果すべき役割には大なるものがあります。さらに刻々と変化していく社会にあって,私たちは理事長が切開いた道にしっかりと足を据え,活発な議論を展開して,企業,家庭また行政において強固な指針となるリスクマネジメント論の確立に今後とも取り組んでゆきたいと思います。

 

2002年1月

日本リスクマネジメント学会

常務理事 吉川吉衛  


学会誌『危険と管理』のページの目次に戻る

目次に戻る